猫の皮下輸液療法last updated:2008/02/07 --できる限り無菌状態で安全に行うために-- ソルラクト500mlのパッケージが変わりました[image] ●はじめに 私自身は6~7年前から猫さんに自宅での皮下輸液療法を行っています(皮下点滴、皮下補液も皮下輸液と同じ内容の療法です)。複数の動物病院で処方していただいていますので各獣医さんからご教示いただいたことを念頭におき特に大切だと思われることを写真を利用して図解を添えてまとめてみました。 獣医さんがご用意されている「飼い主自身で行う皮下輸液の方法(輸液セット-タコ管付き)」を印刷して手元においておき繰り返し読むと便利&安心です。自宅での輸液療法ってなに?という方は「犬や猫の輸液療法について」@PEPPYにも目を通しておくと分かりやすいです。 処方された獣医さんのご説明に分かりにくいところがあったり不安に思ったりすることがあればできればその場で、後から疑問に思った場合は次回受診の際や診察時間内に獣医さんに直接おたずねになって輸液療法に対するご自身の理解を深めることが必要です。獣医さんに輸液のお手本を何度か見せて戴いたり、ご自身の手順を見て戴いたりすることも大切なことです。 どうしても自宅では難しいと思われる場合にはご無理をせずに獣医さんでの輸液にお任せするという決断も重要です。その場合でも輸液療法を獣医さんでしていただいた後に「□ その後の猫さんの状態もしっかり観察します」の箇所(このページの一番下部分です)は該当しますのでお時間許せばご参照くださいませ。 [2008-02-01追記]New! ★★ 重要事項 ★★ 猫さんの体内に異物を入れるのが輸液療法です。 滅菌済みの医療器具を使ってできる限り無菌的に行う必要があります。 輸液後に猫さんが輸液溜まり付近に痛みを感じさせる行動をした場合には、輸液療法を通じて細菌に感染した可能性が高いと考えられます。 自身の作業手順を見直すとともに輸液療法を処方してくださった獣医さんに相談をする必要があります。とくに細菌への抵抗力が低下した老猫さんや、高容量のステロイド剤を利用しているために免疫力の低下した猫さん、FIVなどのウィルス疾患により免疫が不全状態にある猫さんの場合には、できるだけすみやかにかかりつけの獣医さんにご連絡することが必要です。 輸液量が多いか少ないかは処方された獣医さんの想定した時間内に輸液を猫さんの身体が吸収できているかどうかを目安にします。輸液後にどの程度の時間で吸収されたかを記録しておき、身体に浮腫み(むくみ)ができていないかを猫さんの身体を触って調べます。通常よりも吸収時間が遅い場合や浮腫み(むくみ)ができている場合は猫さんの体調に変化がある兆しですのでできるだけすみやかにかかりつけの獣医さんにご連絡することが必要です。 ★★ 重要事項 ★★ ●猫さんの皮下輸液療法 1.輸液パックに輸液ラインをつなぎ、その先の針を翼状針をつけかえてから猫さんの体内に輸液を点滴する方法(=皮下点滴)と、 2.輸液パックにシリンジの先につけた針を刺して輸液を吸い取ることによって移し替えて、シリンジの針を翼状針につけかえてから猫さんの体内に輸液を注射する方法(=皮下注射)などがあります。 1は輸液パックから輸液の滴(しずく)を垂らす方法でゆっくりと皮下に輸液を入れていきます。2は一定の輸液量を予めシリンジに入れておきシリンジに刺した針を猫さんの体内にいれてシリンジのポンプを押すことにより急速に皮下に輸液を入れていきます。 いずれの方法も皮下に輸液を入れるという点で共通しています。 両者の違いは、輸液を入れる際にかかる時間(1の皮下点滴は時間がかかり、2の皮下注射は猫さんの拘束時間が短い)や費用(2のシリンジは使い捨てなので1度に1~2本使うと費用が高額になる)、輸液量の体得(2のシリンジを使うと正確な数値が分かり輸液溜まりを触ることにより患者自身が輸液量を体得しやすい)にあります。皮下輸液の吸収の違いは1か2かという方法の違いよりも、後述するように猫さんの体調によるところが大きいです。 今回はまず1の皮下点滴の方法について注意事項などをまとめていきます。 ●獣医さんから処方された道具を用意します ※輸液パックは250ml、500ml、1000mlなどがあります(画像はソルラクトです。500mlのパッケージは2007年9月より変わりました[image][添附文書])。細菌感染を防止する観点から多くてもおおむね5回以内で1パックを使い切るくらいの分量を選択することが望ましいです。 ※輸液ラインは輸液パックと翼状針をつなぐのに使います。ラインを使うことによりできるだけ高い位置に輸液パックをぶらさげて滴(しずく)の落ちる速度を早くして点滴時間を短縮することもできます。いったん輸液パックと接続したら輸液ラインを絶対に外しません。輸液パックが空になったら別々にして廃棄します。別の輸液パックに輸液ラインを使い回すことは細菌感染防止の観点から絶対にしません。 ※翼状針は細菌感染防止のため使い捨てにします。一度猫さんの体内に刺したものは2度と使いません。猫さんの体内から翼状針を抜いたらすみやかに翼状針の付属部分であるラインを結び細菌が入り込まないようにして保管に備えます。 ●輸液パックを猫肌に暖めます ※写真は新品の輸液パックを利用したものです。同じ輸液パックを2回以上使うときは保管した状態(=ジップロックなどに輸液パック+輸液ライン+翼状針のセットを入れたままの状態)で保温します。 ※季節や輸液のなかみによっては猫肌に暖める必要があるかどうかをかかりつけの獣医さんに確認したうえでなさるほうが安心です。 ※猫肌に暖めるのは輸液という異物を身体のなかにいれる瞬間に違和感をできるだけ感じさせないためです。数時間以上をかけて血管のなかに輸液を徐々に入れ身体になじませていく静脈点滴と異なり、皮下輸液は輸液を数十分以下の短い時間で体内に入れることですから「身体の冷え」にもつながる可能性があります。New! ※翼状針を輸液ラインにセットしたあとで輸液を翼状針の先端部分まで通して輸液の温度が猫肌程度かどうかを自身の指先をつかって必ず確認します。熱すぎる場合は輸液という異物をとりこまされる猫さんに危険ですから絶対に輸液しません。しばらく時間をおいてから再度温度を確認してから輸液します。 ※暖めるのにかかる時間は輸液パックに入っている輸液量によって異なります。未開封の場合は時間がややかかります。輸液量が半分以下になると短縮されますので暖めすぎにご注意ください。 ●輸液パックに輸液ラインと翼状針をつけて輸液の準備をします □ 輸液パックと輸液ラインをセットします □ 輸液パックに輸液ラインをつなげます ※輸液ラインには上下ともに針がついています。プラスチック製の白色の針のほうを輸液パックをさすのに使います。金属製の針はあとで翼状針につけかえます。 □ 輸液ラインの先を翼状針につけかえます ※輸液を翼状針の先端まで通したときには輸液の温度を必ず自身の指先を使って猫肌かどうかを確認します。熱すぎる場合は輸液という異物をとりこまされる猫さんに危険ですから絶対に輸液しません。しばらく時間をおいてから再度温度を確認してから輸液します。 ※猫肌に暖めるのは輸液という異物を身体のなかにいれる瞬間に違和感をできるだけ感じさせないためです。数時間以上をかけて血管のなかに輸液を徐々に入れ身体になじませていく静脈点滴と異なり、皮下輸液は輸液を数十分以下の短い時間で体内に入れることですから「身体の冷え」にもつながる可能性があります。New! ● 輸液パックの分量を量ります(輸液パックを数回利用する場合のみ) ※輸液パックはパックに記載されている目盛りがあてになりません(体得の仕方は後述「★★輸液量の体得方法★★」にまとめています)。シリンジを使っての皮下注射ほど正確に輸液を入れるには感覚で覚える必要があります。 ※輸液を始めるまえの分量から輸液をし終えたあとの分量を差し引くことで、猫さんの体内に入った輸液の量を把握することができます。 ●猫さんを準備して輸液を開始します 輸液パックをS字フックなどを利用して高い所にかけておき、輸液パックに接続した輸液ライン+翼状針が少しゆとりをもって下にいる猫さんに届く程度にします。ゆとりが足りないと感じられる場合には下記のようにS字フックを連結させるなどしてゆとりを持たせるようにします。 猫さんを用意したあと針を刺すまえに自身の手指を消毒しておくと安心です(ラビネットなどで手指に消毒液を噴射して手を揉み、数分待ちます)。猫さんの皮膚にいる常在菌よりも猫さんの身体には害となる人間の手指にいる常在菌が猫さんの皮下組織に入りこむことを防ぎます。 ★輸液のときに暴れる猫さんなどの場合はrelaxしているとき(=眠りかけているとき)などに優しく話しかけながらその場所で輸液をするとよいかもしれません。日頃から猫さんの眠る場所を清潔にしておけば輸液ラインをセットするときに細菌が入り込まないようにしていますから輸液場所にこだわる必要はそれほどありません。輸液のまえに「ちやほや」されて終わったあとには「ご褒美」をもらえるという習慣と輸液後には身体が楽になるという感覚を理解できれば、輸液に対する拒否感が減ってきます。relaxしていない時間でも呼べば来るように‥なるかもしれません。 ※モデル:ジェジェ(19歳半♀)‥輸液だよ~と呼ぶと喜んで来る猫さん。 ※針先は下記画像のように針の断面部分が上にくるようにします。針先の長い面が下で短い面が上です。飼い主自身で行う皮下輸液の方法(輸液セット-タコ管付き)のまんなか辺りにある画像:「刺す部分が上を向いています」が分かりやすいです。 ※翼状針を刺すまえに猫さんの皮膚の消毒をする場合は三角形をつくったあとに針を刺す辺(へん)にあたる部分を軽く拭きます。針をさす目標が分かりやすくなり便利です。 ※翼状針を刺す場所は肩胛骨(けんこうこつ)の少しした周辺部分です。猫さんが痛みが感じにくい場所でかつ輸液の吸収が比較的すみやかになされると考えられているからです。毎回同じ場所を刺すよりは前回とは少し違う場所に刺すほうが小さな傷のついた皮膚が各々治癒するのを邪魔しません。 ※翼状針を刺したあとは大人しい猫さんであれば指を離しても大丈夫です(^_^;うちの猫はどの猫も(「ちびこ」や「ジェジェ」は画像の通りですが‥これまでに施術した猫たちはみなにゃんとも)針をさしたままでも動かずにそのままじーっと寝てたりします‥。 ※輸液療法にまだ慣れていない猫さんや暴れたりする元気猫さんの場合は、皮膚と翼状針を両方ともを2本の指で重なる具合に(針が自然の力で抜けないように、という程度で)そっと抑えておくといいと思います。指を押さえてられない場合には医療用の紙テープで翼状針と翼状針のライン部分を抑えておく方法もあります。 ★★輸液量の体得方法★★ 猫さんの皮膚にできる輸液溜まりの大きさも触りながら下記のの滴数から予測できる輸液時間と輸液後の計測で輸液パックの目盛りとの対応を憶えることにより、ラインでの輸液量を体得することができます。 ●点滴が終わったら □ 猫さんの身体から翼状針を抜きます 1. 針のささっている部分を新しい消毒綿などで軽く抑えながら針を抜きます。 2. 針のささっていた部分を軽く抑え続けて輸液の戻りを防ぎます (猫さんの状態や輸液の量によっては数分抑えたままにします)。 3. 同時に、翼状針のライン部分をわっかにして結び目を作ります。 □ 輸液パックセットの分量を量ります ※輸液を始める前に量っていた重さから差し引いた重さが猫さんの体内に入った輸液の量です。毎回メモをつけておきます。 ※輸液の量は猫さんの脱水の状態や24時間で吸収される量を目安に獣医さんが決めています。輸液が吸収された時間もメモをつけておくと猫さんの体調把握に便利です。 ※猫さんの皮膚に輸液溜まりが残っている状態かどうかは、猫さんの身体に「たぽたぽ」した部分がないか身体を触って確認します。24時間経っても輸液が吸収されない場合や通常よりも吸収が遅いときは獣医さんに相談して適切な輸液量の指示をいただくことが必要です。輸液量の上限をお聞きしてその範囲での裁量を獣医さんから任されている場合は、輸液溜まりが完全になくなってから次の輸液を行います(そのときの輸液量は少なめにした方が無難ですが、適切な量をかかりつけの獣医さんとしっかり相談することが安全かつ確実な輸液療法になります)。 □ 次回の輸液に備えて輸液セットを保管します □ 医療廃棄物は部品ごとにまとめてこまめに獣医さんに返却します ※輸液パック、輸液ラインセット、翼状針、(シリンジ)は医療廃棄物です。使用後は部品ごとにまとめて処方していただいた獣医さんに返却します。 ※廃棄物の数がある程度まとまってから返却するよりは次回受診日などにこまめに返却したほうが処方した獣医さんに「患者さんに返却を忘れられていない」と安心していただけます。 □ その後の猫さんの状態もしっかり観察します <<感染の有無について>> ・輸液後に猫さんが輸液溜まり付近に痛みを感じさせる行動をした場合は、輸液療法を通じて猫さんが細菌感染した可能性があります。 ご自身の作業手順を見直すとともに輸液療法を処方してくださった獣医さんに相談をする必要があります。とくに細菌への抵抗力が低下した老猫さんや、高容量のステロイド剤を利用しているために免疫力の低下した猫さん、FIVなどのウィルス疾患により免疫が不全状態にある猫さんの場合には、できるだけすみやかにかかりつけの獣医さんにご連絡することが必要です。 <<輸液量について>> ・輸液がどの程度の時間で吸収されているかをメモしておくと便利です。 吸収された時間の目安をかかりつけの獣医さんに自己申告すると、獣医さんも猫さんの病状を把握しやすくなります。 ・輸液の吸収が通常よりも遅いときは、猫さんの体調に変化が生じています。身体に浮腫み(むくみ)がでていないかどうかを猫さんの身体をくまなく触って調べてみる必要があります。 かかりつけの獣医さんにその旨をご報告して適切な輸液量を指示していただくとともに輸液療法の副作用のひとつに肺水腫がありますから他の療法についてもご相談をしてみてもよいかもしれません。 << そのほか >> ・猫さんの身体に翼状針を刺したり抜いたりするときに少量の血痕を認めることがあります。 翼状針をぬいたあとに翼状針を刺した部分を軽く抑えることにより通常は止血することができます。多くの場合は針を刺したり抜くときに毛細血管に針先が当たることにより出血していますので針を「さっ」と刺して「すっ」と抜く練習をすることにより血痕を見なくて済むようになると思います('_'*)※FIVを発症していたり他の疾患のために猫さんの血液中の血小板がわずかになっていて出血傾向が止まらない場合はすみやかにかかりつけの獣医さんにご連絡して適切な処置をあおぐ必要があります。 ●最後に 猫さんの輸液療法は数を重ねれば確実に技量があがります('_'*)猫さんに不安を気取られぬよう(^^)人間の側が落ち着いて楽しんで(?)施術することによりスムーズにできるようになっていくと思います。 自宅で輸液療法をおこなうなかで少しでも不安になったり、細菌感染が心配になったり肺水腫が気になったら、処方していただいた獣医さんに率直に何度でもご相談になって猫さんに応じたよりよい方法を探ることが大切です。拙文がわずかでもお役にたつ部分があれば幸いです。 ←[Home]に戻る ※はじめてこのblogにいらした方は[はじめに]をご覧ください。 |